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05 2017

利川の山荘2

【成均館儒生たちの日々】に登場するキャラクターを、勝手に現代に置き換えた二次創作です。
原作やドラマ版から引用した部分もありますこと、ご容赦ください。



夜9時を過ぎた頃、ユンシクとソヨンはアトリエを出ると、地下鉄に乗って江南駅に向かっていた。
週末の江南区は、たくさんの若者や観光客で溢れかえっている。
駅の改札を出たふたりは、手を強く握り合い、ソンジュンと待ち合わせをしたカフェへと急いだ。

夜の繁華街で、キャップを目深に被り、マスクで顔を隠す男の姿があった。
ビルの一角で壁にもたれ、俯きがちに、行き交う人々をやり過ごしている。
逃走中のハ・インスだった。

インスが訪ねていく先々に、警察官の姿があった。
逃げ場を失ったインスは、見知った顔を探すために、日が落ちて繁華街にやってくると、人込みに紛れて身を隠していた。
インスは、目の前を通り過ぎて行った若いカップルの姿に、思わず目で追いかけた。
偶然にも、ユンシクとソヨンが連れ添って歩く姿が、目に飛び込んできたのだ。

どん底に陥り、世間から身を隠して逃げる生活に、インスの自尊心はズタズタに切り裂かれていた。
二人の姿を見たインスは、激しい嫉妬が湧き上がり、頭の中でプツンと何かが切れた。
ユンシクの腕を掴み、振り向きざまに殴りつけると、ユンシクの身体が石畳の路上に叩きつけられた。
インスは仰向けに倒れたユンシクに馬乗りになって、何度も殴りつけて執拗に暴行を加える。
突然の事に驚いたソヨンが悲鳴を上げ、とっさにユンシクを庇おうとして近づくが、インスに突き飛ばされて路上に転がった。

「誰か、お願い!誰か、助けてっ!!」
ソヨンの悲鳴と叫び声に周囲は騒然となったが、誰も手を貸そうとはしなかった。
何度も殴られ意識がもうろうとする中で、ユンシクはソヨンに言った。
「…ソヨンさ…ん…逃げ…て」

その時、背後から何者かがインスの両肩を掴んで引っ張り、ユンシクから引き離した。
倒されたインスが見上げると、怒りで拳を震わせながら険しい視線を向ける、ソンジュンの姿があった。
「あなたは…!?」
インスの変わり果てた姿に、驚愕した表情を浮かべるソンジュン。
「うぅ…イ・ソンジュン!貴、様――ぁ!!」
叫びながら殴りかかってくるインスを、ソンジュンは身をひるがえして避けた。
インスの拳が空を切った勢いで、地面にうつ伏せに倒れこむと、ソンジュンは膝でインスの体を押さえ、腕を背中に引っ張って捻り上げた。
傍に倒れているユンシクは、ピクリとも動かない。
ソンジュンは周囲にいる人に向かって叫んだ。
「すみません、誰か、救急車を呼んでください!!警察も!早く!―――」

手首を捻りあげられて、苦痛で顔をゆがめていたインスは、ようやく我に返り、抵抗するのをやめた。
そして、嗚咽しながらユンシクの名を呼ぶソヨンの姿が目に入ると、静かに目を閉じた。

すでに誰かが通報したのだろう、すぐに警察がやって来ると、ソンジュンをインスから引き離そうとする。
「待ってください!僕じゃない!彼は…指名手配中の、ハ・インスですっ!!」
ソンジュンは、警察の手を振り払い、叫んだ。
インスの名前を聞いた警官のひとりが、応援要請をし、もう一人の警官が、その場でインスを暴行の現行犯で逮捕した。
ユンシクに寄り添うソヨンの姿を、肩越しに振り返ったインスは、警官に両腕を掴まれながら一筋の涙が頬を伝った。

ソンジュンは、倒れているユンシクのもとに駆け寄り、呼吸をしていることを確認すると、大きく息を吐いた。
ユンシクの頭から血が流れていることに気が付き、ユンシクに縋り付くソヨンに、救急車が来るまで動かさないように言った。

救急車がやってくると、すぐさまユンシクの応急処置が施された。
ストレッチャーの上で頭を固定されて、車内へ乗せられたユンシクを、ソンジュンは心配そうに見ていた。

ユンシクとソヨンを乗せた救急車が、サイレンを鳴らして発車すると、応援に駆け付けた数台のパトカーや、覆面の警察車両が次々と現場にやってくる。
夜の繁華街は、騒然となり、物々しい雰囲気に包まれた。

パトカーの後部座席で、両脇を警官に挟まれて座っているインスは、顔を上げたまま一点をじっと見つめていた。
インスを乗せたパトカーが現場から離れていくのを、外で警官から事情聴取を受けていたソンジュンは、険しい表情で見送った。

.。o○○o。..。o○○o。..。o○○o。.


日付が変わって間もなく、ソンジュンはユンシクが搬送された病院に、タクシーで向かっていた。

憎悪に満ちた表情でユンシクに殴りかかるインスの姿が思い浮かぶ。
同時に、ストレッチャーに乗せられた、痛々しいユンシクの姿が脳裏をかすめると、ギュッと目を閉じた。

―――すまない、テムル…


ソヨンとインスの間柄を知らないソンジュンは、ユンシクが暴行されたのは、自分のせいだと思い違いをしていた。
ユニの行方が分からないのも、自分に原因があるような気がしてならない。
ただ、彼女が安全な場所にいるということだけが、ソンジュンにとってほんのわずかな支えだった。

救命救急室の前の長椅子で、胸の前で手を握りしめ、心配そうにうずくまるソヨンの姿があった。
ソンジュンが近づいて、彼女に尋ねた。
「すみません…テムル…いえ、キム・ユンシクは…?」
ソンジュンに声をかけられたソヨンは、ゆっくりと彼を見上げて答えた。
「まだ、検査中みたいです」
「そうですか……失礼ですが、あなたは?」
「チョン・ソヨンと申します…ユンシクさんは、私の大切な方です……カラン、さんで、いらっしゃいますか?」
「はい。イ・ソンジュンって言います。彼とは大学の友人で……」
ソヨンは、イ・ソンジュンという、聞き覚えのある名前に驚き、ソンジュンの顔をじっと見ると、ウギュがユニをさらってきた動機を悟った。

もしあの時、バッグから落ちたユニの学生証を拾わなければ、彼女はどうなっていたかわからない。
いつものように知らぬふりをしていたら、ウギュの悪事に手を貸したことになる。
目の前の青年を失望させただけでなく、愛するユンシクが永遠に去って行ったであろう。
ところがヨンハがユニを救ったことで、自分の身に危険が迫り、ユンシクを傍に来させた。
その挙句、彼を危険な目に合わせてしまった。

馬乗りになったインスから、暴行を受けるユンシクの姿が、幼い頃、同じ様に暴行を受けて亡くなった兄と重なる。
幼い頃の壮絶な思い出が蘇り、ソヨンの脳裏に鮮明に浮かぶと、呼吸を荒げ、激しく肩を揺らし始めた。
そしてぽろぽろと涙を流しながら、その場に崩れ落ちた。
必死で声を殺して咽び泣くソヨンは、兄が死んだ日の幼い少女に戻っていた。

突然、崩れるように床にうずくまったソヨンに驚いたソンジュンは、彼女を抱え上げて長椅子に座らせると、看護師を呼んで、ソヨンをどこかで休ませるように頼んだ。

ソヨンが処置室の中に連れていかれると同時に、ユンシクの付き添いを探す声が聞こえてきた。
ソンジュンが立ち上がり、一緒にいた友人だと告げると、中に入るよう促された。

ユンシクを診た医師が、親族と連絡を取りたいという。
ソンジュンは、親族と連絡は取れないし、居候先があるが、明日の朝にしか連絡が取れないと説明した。

「重症なんですか?」
「まだ、何とも言えませんが、後頭部を強打したことで、脳震盪と裂傷による出血がありました。出血はすぐに治まりましたが、内出血の恐れがありましたので、CTを撮りました…今のところ内出血は見られませんが、頭を強打していますので、万が一と言うことも考え、造影剤を投与して、詳しいCTを撮った方がいいかと…しかし、副作用の危険性があるので、患者さんの病歴や持病がわからない限り、検査ができないんです…患者さんの持病など、ご存知では?」
「彼は、喘息を患っていました。入院歴もあると聞いています…」
「そうですか…じゃあやめておきましょう…今夜ひと晩はここの処置室で、患者さんの容態をモニターした方が良いですね…何かあれば、すぐに対処できますから…」
ソンジュンは、お願いしますというように頭を下げた。
「…先生?彼は、どこに?」
「あちらのベッドにいます。貧血を起こしていましたので、今は点滴中です」
「会えますか?」
「ええ。構いませんよ…看護師に案内させましょう。ただし、あまり刺激しないように」
「わかりました……あの、一緒に付き添っていた女性ですが…」
「ええ、あとで診ましょう」
「ありがとうございます……」

医師が看護師を呼び、ソンジュンをベッドに案内するよう伝えた。
そして警察が訪ねて来ても、患者への事情聴取は、明日の昼以降にしてもらうようにと、言い加えた。

ベッドに横たわるユンシクは、ぐっすりと眠っていた。
ずっと張りつめていた緊張の糸が解れたようだ。
頭に包帯が巻かれ、顔の殴られた場所が赤く腫れあがって痛々しい。
ソンジュンは、傍にあった椅子に腰を下ろし、ユンシクに付き添った。





※挿入する画像は、管理人の悪趣味により編集・加工を施しており、あくまでもイメージです。否定や侮辱ではございませんこと、ご容赦ください。実在する人物・団体とは一切関係がございません。

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